科学史学会に限らず,多くの学会に根を張る「若い奴は雑巾がけ」「若い奴は下働き」思想について続きです. #科学史学会選挙
10年前の会長選挙に立候補して落選した後の総会で私は次の提案をしました.「選挙管理委員には,大学の退職者など,時間に余裕のある会員に依頼することを原則とする.特に,常勤職を得ていない若手研究者への依頼は差し控える.」
提案の理由は説明するまでもないでしょう.大学を退職した70歳前後の人なら,200票程度の開票作業は無理な仕事ではありません.しかも大学の専任職にあったということは学会から長年にわたって大きな恩恵を受けているわけです.その恩返しをしてもいいでしょう.
選挙管理委員は,1.公示前,2.立候補・推薦の整理,3.選挙の公示,4.開票と4回集まればいい仕事です.無投票なら2回で済みます.しかし,専任職を得ておらず,研究に1分でも多くの時間を割きたい若手の時間をこういう仕事で奪うべきではありません.
しかし,当時の全体委員会は,私の提案を,人手の確保が難しいとあっさり却下しました.それ以上の発表はありませんでした.
本当に選管を70歳前後の方にお願いすることはできないのでしょうか.私なら,首都圏在住の該当者に片っ端から電話をかけて,やりたくないという人に「若手の時間を奪うのは平気だが名誉教授の自分が開票作業などをやるのはプライドにかかわるということでしょうか」と尋ねます.
それでも断る人には「『**名誉教授に依頼しましたが断られました』と科学史通信で実名を発表します」と通告します.これだけやっても4名の選挙管理委員が確保できないと当時の全体委員会は考えたのでしょうか.
科学史学会の全体委員会が,「選管は長年学会の恩恵を受けた年長者で」という私の提案をあっさり却下した本当の理由は,この提案が,若手に「雑巾がけ」あるいは「下働き」をさせるのが当たり前というイデオロギーへの挑戦だったからかもしれません.
こういうことは変えていかなくてはなりません.特に,科学史全体が存亡の危機にある現在,研究者を目指す若い世代を大事にしているというメッセージを送ることは非常に大事です.若手には研究に関係することで時間と労力を使ってもらうべきです.
なお,科学史学会では,選挙管理委員の次に全体委員に立候補してもらうという,実質的なリクルートのコースが存在していることも,若手に選管委員をやらせる理由になっているのかもしれません.
しかし,それなら学会が,若手の研究会を企画し,若手に一般向け講演(授業)をお願いして,その人たちが専任職を得た時点で全体委員をお願いすればよいわけです.若手をもっと積極的に学会に「巻き込む」には,彼らの研究にプラスになる企画を考えるべきです.
若手の「雑巾がけ」,「下働き」が横行してきた背景には,言うことを聞く若手に職を紹介できたためかもかもしれません.これは優秀な人にポストが回らない点で重大な不正行為ですが,今はそういう力すらなくなったために,全体委員を確保できないのかもしれません.
ともかく,若手(とくに専任職のない若手)に雑用を押しつけることを当然とするのが2007年の全体委員会の総意でした.現在も大きく変わっていないかもしれません.それが変わるためには,若手の支援を第一に考える人たちに,学会運営に加わっていただく必要があるでしょう.