和文誌編集については,書きだすときりがないので,いずれまた触れるとして,立候補にあたっての所信を一通り述べることにします.次は(2)若手研究者支援です.
科学史のポストは減っています.もともと科学史のポストが二つ以上ある大学は珍しく,人事委員は科学史の人でないのが普通です.最近の予算削減で旧帝大でも大学全体のポスト削減が言われています.守る人のない科学史のポストが真っ先に消されるという成り行きも予想されます.
現在でも科学史を含む複数分野を指定して一人だけ採用する公募が目立ちます.他分野の候補者に敗れれば科学史のポストが減ってしまいます.こうなると学会で若手研究者を支援しないと,将来の学会の存続にかかわります.
しかし名案があるわけではありません.私は会長に当選すれば任期中に還暦を迎える年齢です.若手研究者の置かれた状況を本当には分かっていないと思います.当事者の声をまず聞くべきです.基本は,研究とその成果の発表を支援するということでしょうが.
そこで,若手が発表する研究集会を開いて,多少の援助をする(例:遠方からの発表者の交通費).同時に懇談会も開いて意見を交換し,中堅の研究者や学会の委員が若手の抱えている問題や要望を聞く,というのはどうでしょう.新たな支援策が浮かぶかもしれません.
懇談といっても飲み会である必要はありません.それは勝手にやって下さい.学会が弁当を注文して,会場で昼食を兼ねた懇談.20人で千円の弁当なら2万円.他に交通費補助で2万円.年に10回研究会を開いても40万円です.この種の支出は無駄でしょうか.
それから,せっかく若手に研究発表をしてもらうなら,同じ人に,自分の研究分野を概観して科学史全体の流れの中に位置づけるような,一般向け講演(授業)をお願いするのはどうでしょう.午前は研究会,昼の懇談の後,午後に研究者でない会員も対象にした講演.
自分の分野を概観する話を準備するのは,結構時間がかかりますが,普段の研究と違った意味で勉強になり,研究にも有益だと思います.大学での非常勤の授業で使えるかもしれません.
この午後の講演後に再び懇談の時間をとって,こんどは学会の委員が学会の現状や問題(財政・和文誌・欧文誌など)を説明して,意見や要望を聞いてはどうでしょう.委員の大半は研究者で,研究者以外の会員の声はなかなか入ってきません.積極的に機会を作りましょう.
1年間の学会の予算は600万から700万.しかし大半は和文誌・欧文誌の編集発行,事務局の賃借料などの固定支出で,余裕はありません.年に40万でも新規支出は大変です.
訂正:近年の日本科学史学会の予算は会費だけで約七百万,学会誌売上や補助金を加えると一千万ほどになります.
しかし現状は科学史の存亡の危機です.予算がないというのなら,若手支援のために,科学史関係の任期なし専任ポストの会員から年に1万円ずつ賛助会費を頂いてもいいと思います.教授なら2万円.専任かどうかで生涯収入は1億円以上差があるはず.2万円を惜しむのは吝嗇でしょう.
こういう状況を作った国の政策が問題であることは分かっています.学会が何かしても焼け石に水かもしれません.しかし手をこまねいていては,今の若手は失われた世代となり,それこそ科学史が滅びてしまいます.教授の皆さん,ボーナスごとに1万円を若手のために出せませんか?
村上陽一郎先生は,コンパの後で学生が2次会に引っ張っていこうとすると,これで勘弁してくれといって1万円置いていって下さいました(2万円だったかな?).執筆で非常にご多忙でしたので.あんなに本は書けなくても,せめて気前の良さでは負けたくないものです.
といっても,私が会長になったらさっそく先生方の研究室に現れて1万円ずつ巻き上げるということではありません.ここで言ったことが全体委員会で承認されれば,学会の予算から補助が支出されます.
ただし,学会にお金がないからやらない,と言うべきではない.もしそうなら,先生方から1万円ずつ巻き上げてでもやるべきだ,と思うのです.そういう危機意識を専任ポストをお持ちの方には共有していただきたい.
会員増で支出を吸収できればそれに越したことはありません.それで若手支援の代わりにと言っては何ですが,一般向け講演も若手の方にお願いしたい,というわけです.
ここで書いた「研究会+懇談+講演会」は,今のところ私の思いつきです.もっと検討が必要です.大事なことは,人が集まって自由に懇談する機会を作り,学会としてできることを探っていくことです.その中でもっと有効なアイデアが出てくることを期待します.